こんどは何?(仮)

日常の出来事とか思ったこととか感想です。

透明な沈黙。

先日、何気なく立ち寄った本屋で運命的な出会いをしました。

その相手こそ、タイトルの「透明な沈黙」。
 
 
 
 
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鮮やかでいて孤立した透明標本の写真と、哲学者ウィトゲンシュタインの言葉で紡ぐ、哲学書というにはあまりにも美しく儚い一冊。
 
 
元々透明標本が好きで、哲学書の類いも好きな私にとって大変魅力的な組み合わせでした。
今回はこの本について書きます。 
 
 
 
 
まず、『透明標本』とは何か。
 

 

たんぱく質酵素により分解し、肉質を透明に、そして硬骨を赤紫、軟骨を青色に染色をする」という骨格研究の手法「透明骨格標本・透明二重染色標本」をベースとし、技術の研鑽の元、「命」をより身近に感じる造形作品「透明標本」として活動をしています。
 
透明標本について - 新世界『透明標本』ホームページより
 
 
 
 
そして冨田伊織氏の著書・新世界『透明標本』が発売されたことにより、透明骨格標本もとい透明標本の存在が世に広まったと言っても過言ではない。
 
 
新世界『透明標本』で時代を拓いた冨田伊織さんという作家がいます。
 採集した生物の標本に軟骨は青く、硬骨は赤くと二色の彩色を施し、新たな生命を吹き込んで蘇生させた彼の秀作は、沈黙の「死」から、語ることのできる「生命 」への再生を見事なまでに表現しています。
 
透明な沈黙 - イントロダクションより
 
 
 
 
そして、ウィトゲンシュタインとは何者なのか。
 
 
ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン (1889-1951)
オーストリアのウィーンで生まれ、イギリスのケンブリッジ大学で活躍した20世紀の哲学者。 
 
 
ウィーンの大富豪の家に生まれた彼は、お金、名誉などすべてを自ら放棄し市井の人となり、自分の求めてる哲学の世界を探求してきました。
誰にでも起こりうる日常を、示唆したウィトゲンシュタインの思考は「言語哲学」を確立させ、出身地のヨーロッパのみならず、多くの国で支持者の心を掴みました。
 
透明な沈黙 - イントロダクションより
 
 
 
 
まるで共通点がないように思える両者。
そんな二つが一つになることで与えてくれたものを、私はあえて安堵感と表現したい。
 
 
感想は敢えて、思ったままの気持ちで綴ります。 
 
 
 
 
落ち着き。安心。しかし音はない。
この本から音はしない。
純粋さが生んだ静寂。
無垢な静けさ。
この無音は、宇宙のように畏怖を孕んではいない。
水中に潜るような、しかし苦しみはない。
真っ白い空間の中ただ一人、自分という人間がいて、白に引き立てられたその存在の明瞭さに、嫌でも自身を認識せざるを得なくなるような。
そしてそこで何かを感じたのなら、間違いなく自分へ返ってくる。
 
 
私は以前から、真っ黒な世界より真っ白な世界の方に恐怖してしまう。
真っ黒なら何も見えなくて済むのに、真っ白では自分だけが見えてしまうと思うから。
 
 
この標本が良い例えだ。
 
真白な世界でただ一人。(敢えて一匹や一つと表現しないでおく。)
透明になれば尚更、何もかも見透かされてしまう。
と同時に、自分には既に不透明な色がついていると思い知らされる。
気付かせてくれたのは、透明な生き物。(だったもの、というにはあまりにも生々しい。それなのに、一度は息をしていたなんて信じられないほど美しい。)
 
 
それらのなんと頼りないことか。
 
 
 
 
しかしそんな、真っ白な世界にいるときだけ、自分と一対一になれるのではないだろうか。
そのときだけ、自分と向き合えるのではないだろうか。
 
 
ウィトゲンシュタインの表現は、必ずしも私が理解できるものであるとは限らなかった。
が、しかし彼もまた自分と向き合い続けたのだろう。
彼の根底にある孤独(これはネガティブな意味ではない)が生んだ、不器用で素直な思いや気付きが、読み手の心に触れては、正しく独りにしてくれる。
 
 
私が書くものは、ほとんどいつも自分自身に対する独白である。
それは私が、自分と二人きりで話していることなのだ。
 
(p.28)
 
 
 
 
二つの共通点は、人を独りにするところだ、と思った。
 
 
そして独りになった瞬間に、ふとウィトゲンシュタインが現れて、
 
 
標本たちに息はない、当たり前だ。
しかし我々は生きている。
これは、当たり前だろうか?
 
 
そんな風に問われているような気がした。 
 
 
 
 
この本との出会いは偶然じゃなかった。
そう思わずにはいられないくらい、今の私に必要な言葉が詰まっていました。
そしてこれからも私の人生に寄り添ってくれるのだと思います。
 
 
 
では最後に、私がこの本で一番ぐっときた言葉を。
 
最後まで読んでくださってありがとうございました。
 
 
 
 
あなたが変わらぬ愛の
軽やかなヴェールを私の頭の上に投げ掛けると
あなたの両手が動き
体が柔らかく動くと
私の魂は感覚を奪われる
この愛のヴェールが深く心に跡を刻みつけながら
風に吹かれて
ほんの少しでも動きそうになれば
あなたはそれを掴んでくれるだろうか
 
(p.98)
 
 
 
 

 

 

 

 

あさ






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